短期離職の定義は?「短期離職」という言葉は広く使われていますが、労働局などによる明確な定義は存在していません。短期離職とみなされるかどうかは、同じ期間でも、業種や企業の規模、組織体制、人材の年代など、人によって大きく評価が分かれます。加えて、少子化による人手不足、スキル重視の採用への移行、リスキリング需要の高まりなどを背景に、労働市場の流動性は年々高まっています。その結果、以前であれば「短期離職」と厳しく判断されていた期間でも、現在では必ずしも一律に否定されないケースが増えていると考えられます。つまり、短期離職の定義は一つに固定できるものではなく、「どの立場から」「どの文脈で」見るかによって意味が変わる概念だと言えます。短期離職の定義は“ない”けれど、多くの人はどう感じている?短期離職に関する一般的な感覚を把握するため、Zターンのすゝめでは独自のウェブアンケート調査を実施しました。<調査概要>調査方法 インターネットアンケート調査対象 直近5年以内に会社員として勤務経験のある全国の男女回答数 500名調査実施主体 Zターンのすゝめ編集部実施期間 2025年10月1日 ‐ 2025年11月30日この調査では、短期離職のラインをより正確にとらえるために、次のようなポイントで設問をつくりました。回答者の属性(年代、雇用状況、職種など)短期離職の経験有無何カ月以内の退職を短期離職と感じるかどのような退職パターンを短期離職と判断するか短期離職へのイメージ(肯定、否定、中立)回答者の内訳は、20代が41%、30代が39%、40代が20%と、働き盛りの層が中心です。職種は事務やバックオフィスが32%、営業が25%、技術職やエンジニアが18%などで、ホワイトカラーを中心に幅広い声が集まりました。以下では、アンケートのうち短期離職がどれくらいの期間を指し、どのような位置づけと考えられているかのヒントになる回答を紹介します。Q. あなたは、何カ月以内の退職を短期離職と感じますか?どのタイミングの退職を短期離職と思うかを聞いたところ、結果は次のようになりました。半年以内までを合計すると64.6%となり、全体の約3人に2人が半年以内の退職を短期離職と認識していることが分かります。さらに1年以内まで含めると、84.2%が短期離職の範囲に含めており、多くの人にとって「1年に満たない退職」はおおむね短期離職とみなされていると言えます。Q. 短期離職に対して、どのようなイメージをもっていますか?短期離職そのものに対する印象をたずねたところ、次のような結果となりました。ネガティブな印象を持つ人は合計64%で、全体のおよそ3人に2人が短期離職に否定的なイメージを抱いていることになります。一方で、「中立」と答えた人も26%と4人に1人以上存在しており、「状況によっては仕方がない」「理由次第」という、ケースバイケースの見方も一定数あるといえます。ポジティブに捉える人は合計10%と少数派ですが、「合わない職場にとどまるより、早めに切り替えるのは合理的」という考え方も特に若い世代を中心に見られました。【考察】短期離職とみなす期間とその理由まずは、世の中でよく語られる「短期離職」の代表的な期間と、そのように見られやすい理由を一覧で整理します。期間短期離職と見なされやすい理由採用側の主な見方1カ月以内〜3カ月以内試用期間内・研修期間内での退職が多く、適応力や覚悟を疑われやすいミスマッチ・早期離脱の懸念が最も強い3カ月〜1年以内業務の基本を覚える前に辞めた印象を持たれやすい「最低限の成果が出る前に辞めた」と見られやすい1年〜1年半評価が分かれ始めるゾーン業界や理由次第で「短期」とも「やむを得ない」とも判断される2年以内転職を繰り返している印象が出やすいキャリアの一貫性を疑われやすい3年以内いわゆる「3年神話」による影響「早期」と見る企業と「問題なし」と見る企業に分かれるここから、それぞれの期間についてもう少し詳しく見ていきます。1カ月以内〜3カ月以内と定義する場合この期間は、企業側では「試用期間内」「研修期間内」にあたることが多く、もっとも短期離職として強く認識されやすいゾーンです。業務内容を十分に理解する前、あるいは最低限の仕事を任される前に辞めるケースが多いため、「想定と違った」「環境に合わなかった」といったミスマッチ要因が強調されやすくなります。採用側からは、スキル以前に、働き方への適応力や継続力そのものを不安視されやすい期間でもあります。3カ月〜1年以内と定義する場合実務に入って一定の業務を経験したものの、成果が十分に見える前に退職するケースが多い期間です。そのため、「環境に慣れる前に辞めた」「業務の本質に触れる前に離脱した」という印象を持たれがちです。1年〜1年半と定義する場合このあたりから、短期離職と判断されるかどうかの評価が分かれ始めます。1年を超えていれば、最低限の業務経験や成果は積んでいると評価されるケースもあり、退職理由の妥当性が重視されるゾーンです。一方で、プロジェクトの完結前や十分な戦力化の前に辞めている場合には、依然として「短期」と見なされることも少なくありません。2年以内と定義する場合2年以内の退職は、「短期離職を繰り返しているのではないか」と警戒されやすくなるラインです。とくに複数回2年以内の転職が続くと、キャリアの軸が定まっていない印象を与えやすくなります。ただし、流動性の高い業界では2年前後の転職は比較的一般的であり、必ずしも否定的に評価されない場合もあります。3年以内と定義する場合いわゆる「とりあえず3年」という考え方が根強く残っているため、3年未満での退職を短期と捉える企業も一定数存在します。ただし近年では、この3年基準そのものが形骸化しつつあり、「3年続いたかどうか」よりも「その間に何を経験し、何ができるようになったか」が重視される傾向が強まっています。結果として、3年での転職が必ずしも迷惑行為や非常識と見なされる時代ではなくなりつつあります。中途採用と新卒採用とでも異なる短期離職の基準短期離職の判断は、同じ期間であっても「新卒か中途か」で大きく変わります。求められる役割・適応スピード・採用時の期待値が異なるため、同じ1年以内退職でも意味合いはまったく別物です。新卒の場合、企業は「育成前提」で採用するため、短期間で辞めるほどネガティブに見られやすい一面があります。ただし近年は、新卒の早期離職も増え続けており、社会的な捉え方は変化しつつあります。新卒が短期離職と見なされやすい期間3カ月以内研修段階での離脱として「早すぎる」と評価されやすい1年以内基礎業務の立ち上がり前に退職した印象1~3年以内従来は「3年以内は早期離職」とされたが、現在は業界によって評価が分かれる新卒は期間の絶対値よりも、以下のような理由が重視される傾向が強い傾向があります。ミスマッチが生まれた背景(配属・仕事内容・対人関係など)ストレス耐性ではなく「適性」の問題なのか次の職場で同じ状況を繰り返さない準備ができているかつまり、新卒は「成長途中で辞めたこと」が懸念される一方、社会構造的に早期離職が一定数存在することも認識されており、近年は柔軟な評価が広がりつつあります。一方で、中途採用は「即戦力前提」のため、短期離職に対する評価は新卒よりもシビアになりがちです。同じ1年以内退職でも、企業側の受け止め方は大きく異なります。中途が短期離職と見なされやすい期間3カ月以内想定していたスキルを発揮する前に離職した印象3カ月〜1年以内成果や職務適応の前に辞めたと判断されやすい1年以内の退職が複数回ある場合キャリアの一貫性に疑問が持たれやすい中途採用では以下のような理由から、とくに評価が厳しくなる傾向にあります。早期に業務キャッチアップが求められる配属や教育にかけたコストが回収できないと感じられやすい「入社前の期待値」と「現場での行動」のギャップが可視化されやすいただし、業界によっては1〜2年ごとの転職が一般的なケースもあります。IT・Web・広告・スタートアップなどでは流動性が高く、短期離職=ネガティブとは限りません。年代別で異なる短期離職の基準短期離職の評価は、年齢によっても大きく変わります。なぜなら、企業が年代ごとに期待する役割や成長スピード、責任の重さが異なるからです。同じ「1年で退職」でも、20代と40代では受け止められ方がまったく違います。20代の短期離職20代は、短期離職に対して評価が柔軟な年代です。社会人経験が浅く、職業選択そのものが「試行錯誤の段階」と見られやすいため、1年未満の転職であっても、即座にネガティブ評価につながるとは限りません。とくにIT、Web、ベンチャーなど成長産業では、20代のうちに複数の職場を経験すること自体が評価される場面もあります。ただし、1年未満の転職が連続すると「定着しない人」という印象が強まりやすくなります。この年代では「短期かどうか」よりも、「転職の理由」「次にどう活かすのか」が強く問われる傾向があります。30代の短期離職30代になると、単なるポテンシャルよりも「専門性」や「再現性のあるスキル」が求められ始めます。そのため、1年以内の離職は20代よりも厳しく見られやすくなり、「なぜ定着できなかったのか」が明確に問われます。2年以内の転職でも、「キャリアの軸が定まっていないのでは」という見られ方をするケースが増えます。一方で、スキル市場価値が高い職種においては、30代での1〜2年単位の転職がむしろキャリアアップと評価されることもあります。30代は、短期離職そのものよりも、「その期間で何を積み上げたか」が評価を大きく左右する年代だと言えます。40代の短期離職40代では、即戦力性やマネジメント力、専門性が強く求められるため、短期離職の評価はさらに厳しくなります。1年以内、あるいは2年以内の退職は、「組織適応力」「責任遂行力」に対する不安につながりやすくなります。企業側は「入社後すぐに組織の中核として機能する」ことを期待するため、立ち上がりが遅い、あるいは定着しない場合の評価はシビアです。そのため、40代での短期離職は、20代・30代と比べて転職活動への影響が大きくなりやすいのが実情です。50代の短期離職50代になると、短期離職は「キャリアの問題」だけでなく、「体力」「健康」「対人調整能力」など、より広い観点で不安視されやすくなります。1年以内の離職は、「組織適応が難しいのではないか」「環境変化に耐えられないのではないか」といった見方につながりやすい傾向があります。一方で、専門性が極めて高い分野や、顧問契約・プロジェクトベースの働き方では、1年未満の契約終了が前提となるケースも多く、必ずしも短期離職が不利に働かない場合もあります。50代は、雇用形態と職種によって短期離職の意味合いが大きく変わる年代です。期間だけでは判断できない「短期離職」とその定義短期離職は「何年で辞めたか」という期間だけで一律に判断できるものではありません。職種の性質や業務の構造によって、同じ在籍期間でも評価は大きく変わります。ここでは、とくに影響が大きい「職種の違い」と「仕事の進め方の違い」に注目して整理します。専門職(資格職)と一般職区分短期離職の見られ方背景にある考え方専門職(資格職)1年以内でも短期と判断されやすい独り立ちまで時間がかかる、教育コストが高い、顧客との信頼関係が重要一般職1年未満でも必ずしも短期と断定されない業務の汎用性が高く、即時に職務移行しやすい専門職は、医療、介護、教育、士業、不動産などに代表されるように、資格や専門知識を前提とし、かつ「人との継続的な関係性」が重視される仕事が多くなります。これらの職種では、入社後すぐに成果が出るわけではなく、一定期間の育成や引き継ぎを前提として戦力化されます。そのため、1年以内の離職でも「短期」と強く認識されやすく、企業側の評価も厳しくなりやすい傾向があります。一方で、一般職は事務、営業、販売、サポート業務など、業務内容の共通性が高く、職場が変わっても比較的スムーズに適応しやすい職種です。そのため、在籍期間が1年未満であっても、それだけで即「短期離職」と断定されるケースは専門職より少なくなります。ただし、これも短期離職が何度も繰り返されれば、職種にかかわらずマイナス評価につながる点は共通しています。プロジェクト型とルーチン型区分短期離職の許容度評価の軸プロジェクト型1〜2年での転職でも短期と見なされにくいプロジェクト単位で成果が判断されるルーチン型1〜2年未満でも短期と評価されやすい安定運用と継続性が重視されるプロジェクト型の仕事は、IT、広告、コンサル、建設などの分野に多く、業務が「案件単位」で進行します。この場合、1つのプロジェクトが3カ月から1年程度で区切られることも珍しくなく、1〜2年で職場を移ること自体が珍しくありません。そのため、在籍期間の長さよりも「どの案件に関わり、どんな役割で、どんな成果を出したか」が評価の中心になります。結果として、2年以内の転職でも短期離職とみなされにくい傾向があります。一方、ルーチン型の仕事は、事務、製造、販売、カスタマーサポートなど、日々の業務を安定して回し続けることが求められる職種です。このタイプの仕事では、業務全体を理解し、効率的にこなせるようになるまでに一定の時間がかかるため、1〜2年未満での退職は「短期」と評価されやすくなります。また、人が短期間で入れ替わること自体が現場負担につながりやすく、継続勤務がより強く求められる構造になっています。退職までの期間をどう判断するべきか(採用向け)採用において本来見るべきポイントは、次の3点に集約できます。なぜ辞めたのか(理由の妥当性と一貫性)その期間で何ができるようになったのか(スキル・成果・再現性)同じ退職パターンを繰り返していないか(累積リスク)まず最も重視すべきなのが、退職理由の一貫性と妥当性です。業務内容と事前説明の乖離、過度な長時間労働、配属ミスマッチ、事業縮小など、環境要因による退職であれば、在籍期間が短くても合理性があります。一方で、毎回「人間関係」「やりたいことが違った」など曖昧な理由が続いている場合は、再現性の高い離職リスクとして慎重な判断が必要になります。次に見るべきなのは、短い期間の中でどこまで戦力化していたかという点です。仮に1年未満の在籍であっても、実務を自走し、成果や数字、プロジェクトの完遂など具体的な実績が示せるのであれば、「短期=低評価」と直結させる必要はありません。期間よりも「立ち上がりのスピード」と「業務の再現性」が重要になります。また、短期離職が単発なのか、繰り返されているのかも、重要な判断基準です。1回だけなら偶発的なミスマッチと判断できることもありますが、1年以内、2年以内の離職が複数回続いている場合は、職務適性や組織適応に構造的な課題を抱えている可能性も否定できません。この場合は、本人の説明と職務経歴の整合性を慎重に見極める必要があります。退職までの期間は「判断材料の一つ」にすぎず、短期離職というラベルだけで機械的に切り捨てるべきものではありません。むしろ、中身を正しく見ることができるかどうかが、採用の質そのものを左右すると言えます。短期離職の定義に「正解」はない。だからこそ“文脈”で判断することが重要かつては「3年」が一つの目安とされてきましたが、転職が一般化し、労働市場の流動性が高まった現在では、その基準そのものが大きく揺らいでいます。短期離職を経験した本人にとっては、「また同じ理由で評価を下げられるのではないか」「転職で不利になるのではないか」という不安を常に抱えやすいのも現実です。そうした不安を一律に否定するのではなく、短期離職という経歴そのものを理解したうえで、次のキャリアに向き合える環境が必要になっています。短期離職専門の転職サイト「Zerobase」は、まさにそうした背景から生まれたサービスです。短期離職という経歴だけで判断されるのではなく、「これまでに何があり、これからどうしたいのか」というストーリーまで含めて評価される転職の場を目指しています。短期離職の定義に絶対的な答えはありません。だからこそ、「期間」ではなく「背景」と「中身」で判断する視点が、これからの転職市場・採用市場において、よりいっそう重要になっていくと言えるでしょう。